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『薬屋のひとりごと』壬氏の正体とは?秘密に包まれた身分を徹底考察

後宮の回廊に立つ壬氏と、その背後に皇族・華瑞月の姿が重なる静かな情景 キャラクター・声優

『薬屋のひとりごと』の壬氏は、後宮では宦官、公的には現皇帝の弟・華瑞月として生きる皇族です。さらに原作では、阿多妃と現皇帝の子ではないかという出生の秘密が、段階を追って強く示されていきます。

アニメ第2期では第36話「華瑞月」、第46話「禁軍」が正体を理解する重要な節目です。この記事では、アニメで確定したこと、原作で明らかになること、猫猫の推測、筆者の考察を混同しないよう整理します。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト+1

※この記事にはTVアニメ『薬屋のひとりごと』第2期までの内容と、後半に原作小説の重大なネタバレを含みます。

壬氏の正体を最初に一文でまとめると、次のようになります。

  • 後宮での姿:宦官を装う「壬氏」
  • 公的な身分:現皇帝の弟「華瑞月」
  • 出生の真相:原作では現皇帝と阿多妃の実子であることが段階的に示される

この三つを分けて考えることが、壬氏という人物を正確に理解する最大のポイントです。

壬氏の正体とは?公的には皇弟・華瑞月

壬氏の公的な正体は、現皇帝の弟にあたる皇弟・華瑞月です。

TVアニメ第1期では、壬氏は一貫して「謎の多い美形の宦官」として登場します。公式サイトの第1期紹介でも、壬氏は猫猫を玉葉妃の毒見役にする「美形の宦官」と説明されていました。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

しかし、物語を注意深く見ると、普通の宦官としては説明しにくい場面が早い段階から積み重なっています。

たとえば第19話から第20話にかけて描かれる祭事です。

第20話「曼荼羅華」の公式あらすじには、猫猫が「祭事を執り行っていた壬氏の立場」にまで思いを巡らせることが明記されています。通常の後宮管理人が担うには重すぎる儀礼であり、ここでは壬氏の身分に対する大きな違和感が提示されます。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

その後、第2期では壬氏の本来の立場がより明瞭になります。

とりわけ重要なのが、第36話のタイトルそのものになっている「華瑞月」です。第35話「狩り」で壬氏は覆面と偽名を使って行動し、第36話では猫猫が彼の隠してきた秘密へ踏み込みます。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト+1

さらに第46話「禁軍」では、壬氏が紫紺の甲冑をまとい、帝直轄の禁軍を率いて子の一族の砦へ向かいます。

ここまで来ると、後宮を取り仕切る一宦官という説明では到底収まりません。皇族として軍を動かせる人物が、日常では「壬氏」という別の顔を使っていたと理解する必要があります。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

原作小説でも、物語が進むと壬氏は明確に皇弟として政治を担います。

ヒーロー文庫公式の第5巻紹介には、子の一族の反乱後、「壬氏もまた、宦官ではなく皇弟として政を行う」と記されています。これは出版社公式が確認できる、非常に明快な根拠です。 ヒーロー文庫

したがって、少なくとも公的身分については推測ではありません。

壬氏=皇弟・華瑞月という関係は、物語が進んだ段階で確定する設定です。

壬氏はなぜ普通の宦官に見えなかったのか

壬氏の正体を知ったうえで序盤を見返すと、周囲の態度が何より雄弁です。

高順が単なる上司以上の慎重さで壬氏を支えていること、皇帝と直接やり取りできること、祭事を担えること、相当な資金や人員を動かせること。いずれも、若い宦官の権限だけでは説明しにくい描写でした。

私はここに、『薬屋のひとりごと』らしい身分表現の巧みさを感じます。

宮廷では「私は高貴な人物です」と本人が名乗る必要はありません。

誰が席を譲るのか、誰が命令に従うのか、誰が顔を直視しないのか、どの儀式を任されるのか。

そうした儀礼、命令権、距離感そのものが身分を示します。

壬氏の正体に関する伏線は、本人の台詞よりも「周囲が壬氏をどう扱っているか」に置かれていた、と見ると非常に分かりやすいでしょう。


壬氏=華瑞月と分かるのはアニメ何話?第2期での判明範囲

「壬氏の正体はアニメの何話で分かるのか」は、検索する方が特に多い疑問でしょう。

結論としては、一つの話で突然すべてを説明するのではなく、第1期から伏線を積み重ね、第2期第36話から第46話にかけて猫猫側の認識まで段階的に追いついていく構成です。

まず第1期第19話から第20話の祭事で、壬氏が通常の宦官ではないことが強く示されます。

第20話の公式あらすじでも、祭事を執り行っていた壬氏の「立場」が事件の重要な要素として扱われています。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

第2期第31話「選択の廟」では、皇帝、壬氏、猫猫が帝位に関わる古い廟へ入ります。

この廟は「この地を治める者」が通り、正しい道を選んだ者が長となるという場所です。皇帝が壬氏を伴わせること自体が、壬氏の政治的立場を考えるうえで重要な場面となっています。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

そして第35話「狩り」。

壬氏は子昌に招かれた狩りの場で、窓を閉め、覆面と偽名を使って過ごします。顔を隠す必要があるほど、公に見せる姿と日常の「壬氏」が切り離されているわけです。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

続く第36話の題名が「華瑞月」です。

猫猫と壬氏は刺客の襲撃から滝壺の洞窟へ逃げ込み、そこで猫猫は壬氏が隠し続けてきた秘密の一端に気づきます。壬氏自身も秘密を明かそうとするため、第36話は正体編の明確な転換点と考えてよいでしょう。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

ただし、猫猫が政治的な意味まで含めて「壬氏=皇弟」を完全に飲み込む段階はさらに先です。

第46話「禁軍」では、壬氏が禁軍を率いる皇族として行動し、猫猫の前でもそれまでとは異なる立場が隠せなくなります。公式あらすじでも、軍を率いる壬氏が明記されています。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

このためアニメ視聴者向けには、

第19~20話で強い伏線、第31~36話で正体が輪郭を現し、第46話で猫猫にも隠し通せない状態になる

と整理するのが最も分かりやすいでしょう。

「第何話で判明する?」に対して一つだけ番号を挙げるなら、タイトルまで踏まえて第36話「華瑞月」が最も象徴的です。


壬氏は本当に宦官?年齢を偽り後宮にいた理由

壬氏は、身体的な意味で本来の宦官ではありません。

皇族・華瑞月が「壬氏」という身分を作り、後宮へ入るために宦官として振る舞っていました。

後宮は皇帝の妃たちが暮らし、その子どもが国家の後継者となり得る場所です。

若い皇族男性がそのまま自由に出入りすれば、制度上も政治上も大きな問題になります。だからこそ、華瑞月ではなく「宦官・壬氏」という身分が必要でした。

作中では、壬氏が宦官としての状態を保つため、薬を常用していることも描かれています。

ここは現実の医薬品と混同すべき部分ではありません。

作品内では、男性としての働きを抑えるために用いている薬という設定として扱われています。実際の医学的効果を一般化するものではなく、『薬屋のひとりごと』世界の設定として受け取るのが適切です。

また、壬氏は年齢も偽っています。

時点によって表記は進みますが、第2期終盤では「壬氏」として認識されてきた年齢と、皇弟として知られている年齢が一致しないことが、猫猫にとって正体を理解する鍵になります。

第46話を扱った報道では、猫猫が「皇弟は19歳」である一方、壬氏としての年齢とは合わなかったため、年齢まで偽っていたのだと理解する流れが紹介されています。 ABEMA TIMES

ここで大切なのは、単に「若く見える」「年齢詐称をしていた」という驚きではありません。

名前、身分、年齢、後宮での役職まで変えなければならないほど、壬氏は華瑞月という皇族の人生から距離を取ろうとしていたのです。

なぜ壬氏は後宮を管理していたのか

壬氏には後宮を整え、皇帝にふさわしい妃を見極める役目があります。

美貌を利用し、自分に不適切な関心を示す妃や女官の反応を見ることも、その役割の一部です。

これは壬氏の容姿が単なる恋愛作品的な「美青年設定」ではないことを意味します。

宮廷では誰もが本心を隠します。

その中で、壬氏の容姿は人間の欲や思惑を表面へ引き出す試金石として機能しています。皇帝への忠誠や妃としての適性を測るため、壬氏自身が一種の仕掛けになっているのです。 アニメイトタイムズ

そして、壬氏本人にとってさらに重要なのが、皇帝に男子の後継者が生まれることでした。

皇帝に健やかな皇子が育てば、皇弟・華瑞月が皇位を継ぐ可能性は下がります。

壬氏は帝位を望んでおらず、後継者が無事に生まれ育つことは、国家の安定だけでなく本人の願いにもつながっています。 アニメイトタイムズ

ここを押さえると、壬氏が猫猫の薬学知識を高く評価した理由も見え方が変わります。

猫猫は皇帝の子どもを苦しめていた原因を見抜き、後宮の病や毒を次々に解明していきます。

壬氏にとって猫猫は、単に「自分に興味を示さない変わった少女」ではありません。

皇帝の妃と子どもを守り、後宮を安定させるうえで極めて重要な能力を持つ人材でもあったのです。

私は、この実務的な出会いが先にあり、そこから個人的な関心が育っていく点に、二人の関係の面白さがあると考えています。


壬氏が皇弟だと分かる伏線は?祭事・覆面・権限に注目

壬氏の正体を知らずに見ると不思議だった場面も、「華瑞月」という身分を知ってから振り返れば意味がつながります。

特に重要なのは、祭事、顔を隠す行動、皇帝との距離、命令権の四点です。

第1期第19~20話では、壬氏が重要な祭事を執り行います。

猫猫は祭具をめぐって起きていた事件をつなぎ合わせ、壬氏に迫る危険を察知します。

この祭事は単なる催事ではありません。高い身分の人物が担う儀礼だからこそ、壬氏が標的になる意味も大きかったのです。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

次に、第2期第35話の覆面です。

壬氏は狩りの席で、わざわざ顔を覆い、偽名まで使っています。

ここで重要なのは「刺客から身を守るため」だけではありません。

華瑞月として人前に出るときと、日常的に後宮を歩く壬氏としての顔が結び付けば、偽装生活そのものが成立しなくなるからです。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

さらに、第31話「選択の廟」では皇帝自身が壬氏を特別な場へ同行させています。

誰でも入れる場所ではなく、国を治める者の資質に関わる廟へ呼ばれること自体、壬氏の立場を示す重要な状況証拠です。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト

そして第46話では、ついに禁軍を率います。

祭祀、皇帝との私的な近さ、軍事指揮権。

これらを一本の線で結ぶと、壬氏が単なる有能な宦官だったという解釈には無理があります。

※画像はAIによるイメージ

私が特に巧みだと感じるのは、壬氏の伏線が「本人の発言」に頼りすぎていないことです。

秘密を抱えている本人なら、言葉ではいくらでも身分を隠せます。

しかし、皇帝がどう扱うか、高順がどう仕えるか、官人がどこまで命令を聞くか、どの儀礼に立つかという制度的な事実は簡単には偽れません。

猫猫が病人の言葉より症状や周囲の物証を見るように、視聴者もまた壬氏本人ではなく、壬氏の周囲に残る「宮廷の痕跡」から正体を推理できる構成になっているのです。


壬氏の出生の秘密とは?阿多妃との関係を原作ネタバレで整理

ここからは、アニメ第2期で確認できる「壬氏=皇弟・華瑞月」より先の、原作小説の重大な内容に触れます。

最初に結論だけ述べると、壬氏の出生については、公的な家系と実際の血縁が異なるという構図が描かれます。

公的には、華瑞月は先帝と皇太后・安氏の子です。

つまり現皇帝から見れば弟にあたり、周囲も壬氏本人も長くその前提の中で生きています。

しかし、阿多妃が産んだ男児と、皇太后が産んだ男児の出生時期は重なっていました。

猫猫は第1期の段階から、この二人の出産に関する事情を材料に、ある可能性へたどり着きます。

それが、赤子が取り替えられていたのではないかという推測です。

この段階では注意が必要です。

猫猫自身も初期には、自分の考えを確定した事実として扱っていません。

アニメ第1期の阿多妃編では、あくまで複数の事実をつないだ「恐ろしく筋の通る仮説」として提示されます。

したがって、アニメ第1期だけを見た段階なら、

「壬氏が阿多妃の実子である可能性が強く示唆されている」

と書くのが最も正確です。

一方、原作小説では巻数が進むほど、この推測を裏付ける当事者側の認識が積み重なります。

特に後期巻では、阿多や皇帝が出生の事情についてどこまで知っていたのかまで掘り下げられるため、単なる猫猫の空想として片付けられる段階ではなくなります。

つまり原作全体まで踏まえると、壬氏は現皇帝と阿多妃の間に生まれた男子であり、先帝と皇太后の子として育てられた人物として読むのが妥当です。

ここは「誰が、いつ、その事実を知るのか」が重要な作品なので、情報を三段階に分けると理解しやすくなります。

  • 公的事実:華瑞月は先帝と皇太后の子、現皇帝の弟
  • 猫猫の推測:阿多妃の子と皇太后の子が入れ替わった可能性
  • 原作後半:当事者側の描写が積み重なり、壬氏が現皇帝と阿多の子である真相がほぼ動かない形で示される

「壬氏は皇帝の弟なのか、息子なのか」という疑問への答えは、したがって立場によって両方です。

公的な戸籍・身分では弟。

血縁上では息子。

この二重性こそ、壬氏の出生の核心です。

赤子の取り替えはなぜ起きたのか

阿多妃は現皇帝がまだ東宮だった頃からそばにいた女性で、その間に男子を出産しました。

ほぼ同じ頃、当時の皇太后も先帝との間に男子を出産しています。

しかし身分上、皇后・皇太后側の出産が優先される宮廷の事情があり、阿多の出産は厳しいものとなりました。

阿多はこの出産を契機に、子どもを産めない身体になります。

そして、阿多が産んだとされていた赤子は後に亡くなります。

第1期で描かれた蜂蜜の事件は、ここへつながります。

阿多の侍女頭だった風明は、幼い皇子に蜂蜜を与えてしまった過去を抱えていました。

現代では乳児への蜂蜜が危険であることはよく知られていますが、作中世界ではその知識が共有されておらず、猫猫が過去の出来事を解く手がかりになります。

しかし、「亡くなったのは本当に阿多が産んだ子だったのか」と考えると、物語は別の顔を見せます。

もし赤子が交換されていたなら、亡くなったのは皇太后が産んだ本来の皇弟です。

そして皇太后の子として育てられた華瑞月こそ、阿多と現皇帝の実子ということになります。

※画像はAIによるイメージ

この真相が重大なのは、単なる家族の秘密ではないからです。

誰の子であるかは、そのまま皇位継承の正統性につながります。

宮廷において血筋は私生活ではなく政治そのものです。

壬氏の出生が公になれば、一人の青年の親子関係が変わるだけではなく、先帝、皇太后、現皇帝、阿多、そして歴代の皇位継承をめぐる認識まで揺らしかねません。

だからこそ、真相を知る人物が簡単に口にできる話ではないのです。

羅門は出生の秘密とどう関係する?

猫猫の養父・羅門も、この過去から無関係ではありません。

羅門はかつて後宮で医療を担っていました。

皇族の出産をめぐる一連の出来事の影響を受け、後宮を追われることになります。

ここは物語構造のうえで非常に重要です。

猫猫は羅門から医術や薬の知識を受け継ぎ、その知識によって後宮の古い秘密を掘り起こしていきます。

つまり猫猫が壬氏の出生へ近づくことは、偶然出会った男女の秘密を暴いているだけではありません。

養父の世代で封じられた宮廷の出来事を、次の世代である猫猫が知識によって読み直しているのです。

これは壬氏と猫猫の関係を恋愛だけでは説明できない理由の一つでしょう。

二人は出会う以前から、羅門と宮廷の過去を介して同じ事件の延長線上に立っていました。


なぜ壬氏は皇位を避ける?華瑞月として生きる葛藤

壬氏は、皇族としての権力を得たい人物ではありません。

むしろ、帝位から遠ざかろうとしています。

現皇帝に安定した男子の後継者がいない時期、皇弟・華瑞月は本人の希望とは無関係に、次代を考えるうえで重要な存在になります。

そこで壬氏は、後宮を管理し、皇帝にふさわしい妃を見極め、後継者が生まれ育つ環境を整える役割を担います。

壬氏が後宮にいる目的と「皇位を避けたい」という願いは、別々の話ではありません。

皇帝の男子が無事に育てば、自分が帝位に近づかずに済む。

そのため、後宮の安全を守ることは国家への奉仕であると同時に、壬氏自身の人生にも直結しています。 アニメイトタイムズ

この視点から見ると、玉葉妃の懐妊は壬氏にとって極めて重要です。

第1期第22話「青い薔薇」の時点で玉葉妃の妊娠が確かなものとなり、第2期はその妊娠と皇子を狙う危険が物語の大きな軸になります。公式の第2期紹介も、玉葉妃の妊娠判明と帝の御子を守ることを物語の出発点として挙げています。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト+1

その後、皇子が誕生すると状況が変わります。

ヒーロー文庫公式の原作第5巻紹介では、子の一族の反乱後に皇子が生まれ、玉葉妃が正室となり、壬氏も宦官ではなく皇弟として政務へ移ることが示されています。 ヒーロー文庫

これは非常に象徴的です。

「壬氏」という偽装が永遠に必要だったわけではありません。

皇帝の後継者をめぐる状況が変われば、壬氏自身も次の役割へ移らなければならないのです。


考察|壬氏の正体が示す「生まれ」と「選択」の違い

ここからは、以上の事実を踏まえた筆者の考察です。

壬氏の正体について最も興味深いのは、「実は皇族だった」という驚きそのものではないと私は考えています。

重要なのは、正体が明らかになるほど、壬氏が自由になるどころか背負うものが増えていく点です。

最初は「美形の宦官・壬氏」です。

その仮面を外すと、「皇弟・華瑞月」が現れます。

しかし、それで終わりません。

さらに出生をたどれば、現皇帝と阿多の実子という、政治的にはいっそう重い血縁へ行き着きます。

普通の「正体もの」であれば、本名や身分を明かすことが解放になる場合があります。

壬氏の場合は逆です。

一つ秘密を外すたびに、新しい義務と関係が姿を現します。

この構造は、『薬屋のひとりごと』全体の「真実」の描き方にも通じています。

猫猫は事件の原因を突き止めますが、真相が分かったからといって、必ず皆が幸福になるわけではありません。

病の原因が判明しても失われた命は戻らず、犯罪の背景を知っても宮廷の身分制度が消えるわけではありません。

壬氏の出生も同様です。

「父は誰か」「母は誰か」という答えが判明しても、彼の悩みは終わりません。

むしろ、そこで初めて「では自分は何者として生きるのか」という問いが生まれます。

私は、ここに壬氏という人物の本質があるように感じます。

出生は本人には選べません。

皇族であることも、阿多の子として生まれたことも、本人が決めたことではありません。

しかし、その身分によって得た力を何に使うかは選べます。

第46話で壬氏が禁軍を率いる姿は、その変化を象徴しているように見えます。

かつては皇族としての自分を隠し、後宮の「壬氏」でいることで皇位から逃れようとしていました。

しかし子の一族をめぐる危機では、華瑞月にしか動かせない権力を使わなければ、猫猫を含む多くの人々を救えません。

これは「皇帝になりたいか、なりたくないか」という単純な二択ではありません。

望まず与えられた力でも、必要なときには責任を引き受けられるか。

壬氏の物語は、その問いへ移っていきます。

また、この視点から見ると、猫猫との関係にも意味が生まれます。

猫猫は壬氏の美貌に容易には惑わされず、皇族だと知らない間も遠慮なく接してきました。

壬氏にとって、容姿にも肩書きにも反応を支配されない猫猫は珍しい存在です。

だから壬氏が猫猫へ惹かれていく理由を、単に「自分になびかないから面白い」とだけ見るのは少し惜しいでしょう。

筆者としては、猫猫が壬氏を役職ではなく一人の人間として扱ってしまう人物だからこそ、彼にとって特別になっていく面もあると考えています。

ただし、これは作中で唯一の答えとして明言されたものではありません。

猫猫の能力への信頼、事件を通じた共闘、美貌が通用しない新鮮さ、個人的な好意など、複数の要因が重なった結果として読むのが自然です。

壬氏の正体を知れば知るほど、二人の関係も簡単ではなくなります。

「宦官・壬氏」と薬師の猫猫なら、個人同士の関係に見えます。

しかし「皇弟・華瑞月」と猫猫になれば、その距離には皇族という政治的現実が入り込みます。

秘密を明かせば近づけるとは限らない。

正体が判明するほど、むしろ身分差が具体化する。

この逆説が、『薬屋のひとりごと』の二人を単純な身分違いの恋愛以上にしているのではないでしょうか。


まとめ|壬氏は宦官ではなく皇弟・華瑞月、出生にはさらに秘密がある

『薬屋のひとりごと』の壬氏は、後宮では宦官として振る舞っていますが、本来の公的身分は現皇帝の弟・華瑞月です。

アニメでは第1期第19~20話の祭事で身分の高さが強く示唆され、第2期第35話「狩り」、第36話「華瑞月」で秘密が大きく動きます。さらに第46話「禁軍」では、壬氏が皇族として禁軍を率い、猫猫にも正体を隠し続けられない段階へ進みます。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト+3アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト+3アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト+3

原作第5巻の公式紹介でも、子の一族の反乱後に壬氏が「宦官ではなく皇弟として政を行う」と明記されています。したがって、壬氏=華瑞月=皇弟は確定した公的設定です。 ヒーロー文庫

一方、出生については情報の段階を分ける必要があります。

初期のアニメでは、阿多妃と皇太后の出産時期、亡くなった赤子、壬氏と阿多の共通点などから、猫猫が赤子の取り替えを推測します。

原作が進むと当事者側の認識も描かれ、壬氏は血縁上、現皇帝と阿多の子であるという真相へ収束していきます。

したがって壬氏の正体は、一言で整理すればこうなります。

後宮では宦官・壬氏。公的には皇弟・華瑞月。出生までたどれば現皇帝と阿多の子。

この三層を理解すると、祭事を任される理由、顔を隠す理由、皇帝との距離、後宮を守る理由、皇位を避けようとする行動が一本につながります。

そして壬氏の物語で最も大切なのは、最終的には「誰の子か」だけではありません。

生まれによって与えられた身分と、自分が選びたい人生が一致しないとき、どう生きるのか。

私はそこに、『薬屋のひとりごと』が壬氏という人物を通して描いている、静かで重いテーマがあると感じています。


よくある質問

壬氏の正体がアニメで分かるのは何話ですか?

第1期第19~20話の祭事から強い伏線があり、第2期第36話「華瑞月」が大きな転換点です。

その後、第46話「禁軍」で壬氏が皇族として禁軍を率い、猫猫も年齢を含めて正体を理解する段階へ進みます。 アニメ「薬屋のひとりごと」公式ポータルサイト+1

壬氏は本当に宦官ですか?

いいえ。本来の意味での宦官ではありません。

皇族・華瑞月が後宮で活動するために「壬氏」という人物を演じています。作中では、宦官として振る舞うために身体の働きを抑える薬を服用する設定も描かれています。

壬氏は皇帝の弟ですか、それとも息子ですか?

公的には弟、血縁上は息子と整理すると分かりやすいでしょう。

華瑞月は先帝と皇太后の子として扱われているため、公的には現皇帝の弟です。一方、原作で描かれる出生の真相まで踏まえると、現皇帝と阿多の間に生まれた子であることが示されます。

壬氏の実母は阿多妃で確定していますか?

アニメ初期では、猫猫の推測として提示される段階があります。

そのためアニメの該当時点だけなら「阿多が実母である可能性が強く示唆される」が正確です。一方、原作後半まで含めれば当事者側の描写も積み重なり、阿多が実母である真相は極めて明確になります。

なぜ壬氏は皇弟なのに後宮で宦官をしていたのですか?

皇帝の後宮を管理し、妃を見極め、後継者が生まれ育つ環境を整える役目を担っていたためです。

同時に壬氏自身が帝位を望んでおらず、皇帝に男子の後継者が育てば自分の皇位継承上の重みを下げられる、という個人的な願いも関係しています。 アニメイトタイムズ

篠原千鶴(アニメ愛好家・フリーランス校正者)